「トラウマは存在しない」という説をあなたは信じますか?
アドラー心理学を取り入れた有名な著書「嫌われる勇気」では”トラウマは存在しない”と述べられています。
「嫌われる勇気」は2013年に発売された本ですが、2015年と2016年の2年連続でベストセラーで1位を獲得しています。
これほどまでに人気のある本ですので、読んだことがない人でもなんとなく聞いたことがあるのではないでしょうか。
本記事では、アドラー心理学を元に
- 本当にトラウマは存在しないのか
- トラウマとは何なのか
- トラウマの克服方法
について述べていきます。(個人的な考えとなります)
正直私自身「嫌われる勇気」を読んだとき、色々と疑問に感じた点がありました。
トラウマを全否定するなら、過去の出来事に囚われているこの気持ちは一体どうやって説明するの?と…。
トラウマとは本当に存在しないのか、深く考えていきたいと思います。
本当にトラウマは存在しないのか?アドラー心理学から考えてみる
まずは一番重要な「トラウマは存在するのかしないのか」について考えてみます。
心理学者であるアルフレッド・アドラーが創った「アドラー心理学」の特徴は、「目的論」を推している点です。
アドラー心理学の目的論とは
引用:Wikipedia
どういうことなのか簡単に言うと、私たちの全ての行動は何かしらの原因によって動いているわけではなく、現在の「目的」に向かっているということです。
もっと分かりやすく説明するために私の例で挙げてみます。
私は人前に出て話すことが大の苦手です。
その理由は、子どもの頃学校の先生に「声が小さい」と指摘されたことや、緊張しすぎて話す内容が全てすっ飛んでしまった経験があるからです。
だから大人になった今も、過去のことを思い出してしまうため人前で話したくありません。
この場合、人前で話すことを避けるために過去の記憶を利用しているとも考えられます。
私たちはつい「原因」を探してしまいます。
上記の例で言うと「人前で話せないのは緊張しすぎな性格で、声も小さいし人から良く思われていないから」というのが原因に当たりますが、そうではなく、本当は今の目的があって行動している、これがアドラーの言う「目的論」なのです。
「人前で話すことを避ける」という目的を達成するために、利用できる記憶を掘り出しているわけです。
変われないのではなく変わらない
著書「嫌われる勇気」では哲人と青年が対話形式で登場するのですが、青年が「人は変わりたくても変われない」と哲人に訴える場面があります。
これに対し哲人は「人は変われないのではなく、変わらないという決心を下している」と言います。
変わりたい人からしてみたら「何をバカな」と思うかもしれません。
「変わる」ということは今と違う自分になるということですから、多くの人は恐れ、避けようとします。
先ほどの例で言うと、
本当は人前で話せるようになりたいし、過去の自分とは決別したい。
でも私は人前では上手く話せないし緊張してしまうから無理だ。
これは、変わりたいと言いながらも変わらないための理由を探しているだけに過ぎません。
例えば、昔イジメにあったことがあるAさんとBさんがいたとします。
【Aさん】
イジメられた経験から外に出るのが怖くなり、人と話せなくなってしまった。
社会に出たらまたイジメられるかもしれないと恐怖がよみがり引きこもりから
抜け出せない。
【Bさん】
自分のことを誰も知らない土地に引っ越して人間関係を一から作り直した。
イジメられた経験から、不登校の子どもを支援する仕事に就いた。
同じ出来事を経験した2人でも、物事の捉え方や考え方によって、選択肢が変わる例です。
幸せになるために必要なのは、お金や環境ではなく「変わるという勇気だ」とアドラーは述べているのです。
トラウマとは何なのか?PTSDはトラウマのことじゃないの?
そうは言っても、トラウマという言葉は一般的に使われていますし、それを全否定したら「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」はどうなるの?という話になってしまいます。
トラウマとは一体何なのか、PTSDとトラウマの関連について考えていきます。
トラウマの語源
トラウマとは、元々は精神的な意味合いのない「傷」という意味のギリシャ語でした。
それが心理学者であるフロイトが「精神的な傷」の意味合いで使ったことで、ドイツ圏から英語圏と、一般的に使われるようになったのです。
ですので、今私たちが使っている「トラウマ」という単語は英語であり「精神的外傷」という意味です。
よく「虎と馬は関係あるのか」なんてことも言われますが、全くの無関係です。
私はてっきりトラウマとは何かに囚われているから「囚われ」から作られた言葉だと思っていました。笑
PTSDとは?
では、続いてPTSDについて考えてみます。
PTSDとは何なのか、厚生労働省のホームページを見ると以下のことが書かれていました。
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態です。
PTSDは決して珍しいものではなく、精神医療においては「ありふれた」病気のひとつであると言えます。
生死に関わる体験をすると、多くの人には不安、不眠、動悸などの症状が生じますが、多くの場合は一過性です。
またフラッシュバックのような症状が生じたとしても、数ヶ月のうちに落ち着く人が少なくありません。しかし時間が経っても楽にならなかったり、かえってますます辛くなることもあります。
また、数ヶ月から数年間経ってから、PTSD症状がはっきりとしてくる場合もあります。
引用:厚生労働省 みんなのメンタルヘルスhttps://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd.html
「PTSDはとても怖い思いをした記憶が整理されず、そのことが何度も思い出されて、当時に戻ったように感じ続ける病気」とのことです。
PTSDは「病気」なのです。
強いショックから、その体験を整理することが出来ず、記憶や時系列などがぐちゃぐちゃになってしまうこともあります。
しかし、生死に関わる恐ろしい体験をしても、全員がPTSDになるわけではありません。
「精神的に弱いとPTSDになる」というわけでもありません。
PTSDになるケースは様々な要因が考えられており、個人差が大きいのが特徴です。
辛い症状が長引く場合は、専門機関に相談する必要があります。
トラウマとPTSDは何が違うの?
PTSDが「病気」だということが分かりましたが、トラウマとは別物なのでしょうか?
トラウマは「心的外傷」とは言うものの病気には分類されません。
【PTSD】心的外傷後ストレス障害。診断のつく治療が必要な病気
【トラウマ】心的外傷。病気ではない。
ですが、PTSDとトラウマは一括りにされることが多く、「PTSD=トラウマ」と思っている人もいるかもしれません。
実際PTSDの「T」は「Traumatic(トラウマティック)」なので、そう思うのも無理はありませんね。
トラウマ(辛い記憶)が残り、それがきっかけでPTSDになるので、PTSDを説明するにあたっては、トラウマの存在を排除することはできないのではないかと私は考えます。
PTSDになる原因の多くが生死に関わることであり、例でいうと下記のようなものが挙げられます。
- 虐待
- 戦闘
- 事故
- 性被害
- 犯罪被害
- 自然災害
これらの体験により、強い心的ストレスからPTSDになった場合、「自分が弱いから」「自分が悪い」と追い込んだり責めたりせず、治療を受ける必要があります。
トラウマは誰にでもあるもの
ここからは私の個人的な意見となりますが、トラウマは多少なりとも誰でも持っているものだと思います。
子どもの頃の思い出したくない記憶や、昔のことでずっと心に残っている嫌な思い出ってみんなあると思うんです。
- 容姿のことでからかわれた
- 仲間外れにされた
- 異性にフラれた
- 仕事で大きなミスをした
- 信頼していた人に裏切られた
「思い出したくない嫌な記憶なんてひとつもないよ!」なんて人、そういないですよね。
そして、その嫌な記憶はトラウマ(心の傷)となって残っていますので、同じことは繰り返さないよう避けて通ろうとします。
アドラーの言う「トラウマは存在しない」について私が思うことは、上記のような誰にでもあるトラウマなのだと考えます。
「学生時代仲間外れにされた経験があるから、社会に出てもまた同じ目にあうだろう」
「好きな人に告白したらこっぴどくフラれたからもう恋愛したくない」
「信頼していた人に裏切られたからもう誰も信用しない」
これらは全て、今の自分を変えないための考え方です。
このようなケースなら「トラウマは存在しないという理論」にも頷くことができます。
トラウマを克服する方法とは
そう言われてしまえばその通りなのですが、やはりトラウマ(心の傷)を全否定することはできないと思います。
なぜなら、先ほども述べたように多くの人が多かれ少なかれトラウマがあり、それが影響して今の自分から脱却できないからです。
そもそも、アドラーが言うトラウマとは、都合よく利用して今の自分を変えないための言い訳にしているもののことを指しているのではと思います。
なので、
- 昔の嫌な記憶を思い出して前に進めない
- 克服しようと挑戦しても失敗する自分しか想像できない
- 今の自分を変えたい
と思っている人向けに、トラウマの克服方法について考えていきたいと思います。
(※PTSDやフラッシュバックを引き起こしている人には参考になりません)
経験の意味付けについて考えてみる
アドラーは、「原因論」を否定しています。
もう一度「人前で話すこと」を例に、原因論と目的論の違いを見てみましょう。
【原因論】
原因:声が小さいと指摘を受けた。話す内容をすべて忘れてしまった。
結果:人前で話すのが苦手
【目的論】
目的:注目されたくない。大きな声で話したくない。
結果:人前で話すのが苦手
見てお分かりの通り、”結果は同じ”なのです。
原因論で考えてしまうと、「声が小さいと人から指摘を受けて、話す内容を忘れてしまった」経験をした人は、全員人前で話すことが苦手ということになります。
しかし、実際はそんなことはなく、同じ経験をした人でも「声の通りを良くするために発声練習をしてみよう!」という目的を設定する人もいるかもしれません。
そうすることで、結果が「人前で話すことが得意」となる場合もあります。
原因は全ての人に当てはまらないことをアドラーは主張しているのです。
アドラーは「結果に原因は関係なく、大切なことは今自分がどう考えるか」だと述べています。
要するに、経験をどう意味づけるかによって人生は大きく変わるということです。
忘れようとするのではなく記憶を上書きする
あなたが”トラウマ”だと思っている記憶は、何年も前のことではありませんか?
人によっては何十年も昔のことかもしれません。
そのくらい昔のことをいつまでも忘れられずにいるからトラウマなのですが、当然そんな根深いマイナスな記憶を、すんなりと忘れられるわけがありません。
「忘れよう」とすることがそもそも間違っているのです。
記憶を消すことは脳の構造上不可能です。
ですが、記憶を上書きすることで少しずつ嫌な記憶を薄れさせていくことならできます。
重要なのはその嫌な記憶に関連するプラスの記憶の上書きです。
今でも人前で話すことが苦手な私ですが、これまで全ての経験が失敗だったわけではありません。
「人よりたくさん練習して挑めば失敗する確率が減る」
「案外みんなそんなに聞いてないみたい」
「分かりやすかったと言ってもらえた」
など、経験を積み重ねていくことで良い記憶も少しずつ刻まれていきます。
そして次第にトラウマレベルが小さくなっていき、完全克服とまではいかなくても「可もなく不可もなく」くらいまでいければ良いのではと考えます。
まとめ:トラウマをどう捉えるかが鍵
アドラー心理学の観点から見ると「トラウマは存在しない」ものとなりますが、心の傷は誰にでもあるものです。
そのトラウマ経験をどう意味付けて、これからの人生に活かしていくかがポイントとなります。
トラウマの記憶は完全に消すことはできないため、良い記憶で塗り替えていくことが有効ですが、良い状態が続いていてもある日突然思い出されることもあります。
それでも「また思い出してしまった…」と自分を追い詰めたりする必要はありません。
落ち込むことはあるかもしれませんが、そんな時は体を動かしたり美味しいものを食べて、たくさん睡眠をとることが大切です。
しかし、トラウマが引き金となるPTSDなどの病気もありますので、辛い症状が長引く場合は専門機関に相談してみることをおすすめします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「嫌われる勇気」をまだ読んだことがない方は是非一度ご覧になって観てください。